
今回はDアカデミーが開催する1等2等無人航空機操縦士(固定翼)講習を取材させて頂いた。
昨今、無人航空機を使った物資輸送・物流の実証実験が全国でおこなわれている中で、物流用として開発されている機体が、回転翼のいわゆるマルチコプタータイプだけでなく、固定翼のいわゆるVTOLやSTOLと言われるタイプの機体も多く登場していることにお気づきだろう。
固定翼機のメリットは何と言っても長時間かつ長距離の飛行ができる点だ。また、飛行も安定しており、物資輸送に最適な機体として評価を受けている。
そんな固定翼機がこれから活躍するシーンがこれから多くなってくるのが予想される中、求められてくるのは目視外飛行だ。前述のとおり物資輸送などでの活用が期待されるということは、長距離の飛行が必要となり、必然と目視外飛行が求められてくるようになる。

今回は国家資格の中で注目を集める固定翼について、その講習現場の取材をさせて頂くことに成功した。
現在の航空法では無人地帯での目視外飛行をレベル3、有人地帯での目視外飛行をレベル4としているが、レベル3であっても飛行エリアの安全を確保するために、補助者や看板の設置による立入管理措置が必要となり、第三者上空を飛行させないというハードルの高いものです。これを一部緩和したのが機体に搭載されたカメラから無人であることを確認しながら飛行するレベル3.5で、このレベル3.5によってさまざまな実証実験が実施しやすくなってきている。
そんなレベル3.5の飛行は無人航空機操縦者技能証明の二等以上を取得とカメラを搭載し保険に加入が条件となります。ただ、固定翼の国家資格取得となるとまだ実施しているスクールや情報が少ないのが現状だ。
そんな中、日本全国でドローンスクールを運営しているDアカデミーが、関東本部において2等無人航空機操縦士(固定翼)講習・NK出張審査を開始したということで、今回その様子を見せてもらうことに成功した。固定翼の国家資格取得に向けた講習とはどのようなものか、早速お届けしたい。
①Dアカデミーの固定翼国家資格講習とは?
Dアカデミーは建設・測量・インフラ点検に特化したプロを育てるドローンスクールで、Dアカデミーアライアンスとして北海道から沖縄まで全国12校が開校されている。Dアカデミーではマルチコプターの国家資格取得コースや赤外線建物診断、民間資格取得コースなどさまざまなコースが用意されているが、その中でも最近設定されたのが、今回紹介する2等無人航空機操縦士(固定翼)講習だ。

千葉県君津市にあるDream Drone Flying Field(DDFF)。広大な敷地を持つ理想的なドローン飛行場だ。
今回の講習会場はDアカデミー東京本部の常設フィールドである千葉県君津市のDDFF。お邪魔してみると、早速固定翼の機体が小気味良く飛行している。会場は周囲に人家もなく、非常に広大で安心して飛ばせる理想的な環境だ。

千葉県君津市にあるDream Drone Flying Field(DDFF)。広大な敷地を持つ理想的なドローン飛行場だ。
機体は中国製のEPPを使った高翼機でいかにも浮きが良さそうなものだ。スタイルはセスナ風のものとなっており、特徴として大きなバルーンタイヤが装着されている。パワーソースはブラシレスモーターとリポバッテリーの組み合わせで、ゆっくりとした機速でもしっかりと飛ばすことができそうだ。

着陸進入する練習機。一般的なラジコン飛行機に見えるが、中身は非常に機能的なものとなっている。
さらに普通のラジコン飛行機と異なるのは、GPSやFC(フライトコントローラー)、テレメトリーセンサーを搭載し機体位置や機速、高度がリアルタイムでわかるようになっていること。そして機体制御用のFCを搭載し、より操縦がしやすくなっている点だ(2等までは安全装置の使用が認められている)。もちろん、この機体は機体審査に合格しているもので、本番の審査と同じ機体で練習できる。
この機体を使って、講師と生徒のプロポをケーブルでつなぎ、何かあった際も講師がすぐに操縦を引き受けてリカバリーしながら、二人三脚で飛行練習を重ねていくのがDアカデミーのスタイル。設置されたテントの下では機体から来るテレメトリー情報をモニターに表示させて、フライト状況をリアルタイムで確認しながらフライトをおこなう。
今回の受講者の皆さんはこれまで一度もラジコン飛行機を飛ばした経験がない、まったくの初心者。それが講習3日目にして、実にスムーズに飛ばしているではないか。離着陸も丁寧におこなっており、一見するとベテランフライヤーのようだ。もちろん機体性能が良いこともあるが、その一方で講師の丁寧な指導が短期間で実力を伸ばすことに成功している要因でもあると感じた。
②中身の濃い講習内容
講習は座学と実技に分かれており、座学では固定翼の飛行に必要な知識を座学でしっかりと身につける。対象となる無人航空機は航空法の中で運用されています。航空法の勉強だけでなく、固定翼を飛ばす際の基礎的な知識や安全に関するマネジメントなどわかりやすく教えてくれます。

座学風景。固定翼ならではの濃い内容となっている。
一方、実技は本格的な固定翼機の飛行を教えてくれる。実際に飛ばす際は受講者と講師のプロポをトレーナーコードで結び、何かあった場合は講師が素早く機体の姿勢を修正してくれる。
さらに、使用している機体には前述のようにGPSが備わっており、リアルタイムで地上にデータを転送してくれているので、フライト終了後に自分の飛行の軌跡を見ることができるのも特徴だ。自分ではきれいに8の字を描いていたつもりでも、実際はかなりいびつな8の字になっていることもある。次回への修正をする上で、こういったデータは非常に頼りになるのではないだろうか。

機体にはGPSが搭載されているため、自分が飛行しているルートがリアルタイムに地上のモニターに反映されていく。
また、2等については安全装置の搭載が認められているため、今回取材した機体に関してもFC搭載で非常に安定した飛行ができていた。機体が自動で傾きを補正してくれることで、安心して飛ばすことができるだけでなく、ひとつの舵を捨てて他の舵に集中できるため、余裕を持って飛行をおこなうことができるだろう。

今回取材に協力頂いたDアカデミー代表の依田健一氏(右)と、受講生であるエアロダインジャパン株式会社代表取締役社長CEOの鹿谷幸史氏(左)。
Dアカデミーでは実際に受講者の後ろに講師が控え、随時アドバイスをおこないながら飛行練習を繰り返していた。その場で的確な指示をもらえるため、かなり実践的な練習をおこなうことができるため、数フライトで8の字飛行やスムーズな離着陸がおこなえるようになっているのも納得だ。また、RCシミュレータを活用し、自宅で基礎の定着を目指す点も見逃せないポイントだ。
③Dアカデミー代表依田氏の想い
Dアカデミー代表の依田健一氏は、ラジコン飛行機のベテランフライヤーであり、さまざまな機体を飛ばしてきた経験を持つ。その経験を今回の講習でも惜しむことなく受講生に伝えているのが印象的だった。

Dアカデミーにおいて固定翼の国家資格講習をスタートさせた依田氏。
固定翼講習は実はDアカデミーでは長い歴史を持つ。去ること2020年くらいから、いわゆるラジコン飛行機を使った固定翼の講習をおこなっていたという。当時はドローンの国家資格もなく、VTOL機もない時代に、Parrot社のDISCOやモーターグライダーを使って固定翼の講習メニューを開講していた。
そういった中、依田氏は中国・深圳のドローン展を視察した際に、国土の狭い日本においては今後はVTOL機が物流の主役になると、その可能性を感じたという。そうなると、固定翼の国家資格が必要になってくると考え、無人航空機操縦士における固定翼の講習を開講することを決めたとのことだ。
また、DアカデミーではDDFFという素晴らしいフィールドを確保しており、固定翼の練習をおこなうにあたって、面でスペースを確保できることも、スムーズな開講につながった。
依田氏は日本において、固定翼の国家資格スクールの需要を感じていた。そこでまずは日本海事協会の出張方式での講習と審査をメニュー化し、スタートすることになった。これは、場所と機体、そして操縦補助者をDアカデミーが用意し、DDFFに日本海事協会のスタッフが出張で来ることで、その場で審査をおこなう方式だ。

Dアカデミー代表の依田健一氏(左)と、機体の開発及び講師を務めるSantaClaus代表の岩本一樹氏(右)。
依田氏は「固定翼の国家資格を取得希望の方がいらっしゃればどんどん応募して頂きたい」と話す。まずは熱意があれば大丈夫で、スキルは日を追うごとに身に付くとのこと。固定翼の国家資格取得に熱い想いを持った方であれば大歓迎とのことだ。
④講習の成果を実践で発揮
今回、取材時に訓練をおこなっていたのはエアロダインジャパン株式会社代表取締役社長CEOである鹿谷幸史氏と会社のスタッフの皆さんだった。鹿谷氏はエアロダインジャパンで導入予定のVTOL機「ORCA」の飛行のため、今回の講習を受講していた。この「ORCA」はドイツ製のVTOLドローンで主に物資輸送に使われる予定で、ペイロード15kgで55kmの巡航が可能、ペイロードなしでは100kmも飛行できる能力を持つ。

エアロダインジャパンがデモフライトをおこなったVTOL機「ORCA」。ドイツ製の機体となっている。
エアロダインジャパンでは、この「ORCA」を本栖湖においてデモフライトを実施。非常に力強く、そして安定した飛行を披露した。このような大型のVTOL機を運用する上で、Dアカデミーの講習で習ったことが非常に役立っているという。今後、物資輸送のシーンにおいてVTOL機が主役となってくる可能性があるが、そういった際に固定翼の無人航空機操縦士のスキルは必ず求められてくることになるだろう。

山梨県の本栖湖でおこなわれたデモフライトでは、非常に安定したフライトを披露してくれた「ORCA」。
マルチコプターとは異なる特性がある固定翼機。その機体構造と特徴、運用時の注意点、そしてフライトテクニックを、固定翼機飛行歴の長いベテランフライヤーによって丁寧に指導してもらえるDアカデミーの固定翼講習は、素直に講習料以上の価値があると感じた。これから固定翼の国家資格取得希望者も増えてくるだろうが、まずはこの講習の門を叩いてみるのが良いのではないだろうか。
取材協力:
Dアカデミー株式会社
エアロダインジャパン株式会社