【後編】ロボット・システムのプラットフォーマーへと進化を続ける ブルーイノベーションの挑戦

 

ますます発展が続くドローン業界。特にドローンの産業用利用については、2026年はその活用シーンがさらに増えていくことが予想されている。

そんな産業用ドローンにおいて、ソフトウェアの分野からドローンのさらなる有効活用を目指しているのがブルーイノベーション株式会社だ。同社は2023年12月には東証グロース市場に上場を果たすなど、ドローン業界において確固たる地位を築きつつあり、業界内外から注目を集めている企業である。

そんなブルーイノベーションは「新しい発想(アイデア)・創造・技術革新(イノベーション)によって、世界中の人々に安心、安全、便利、楽しさを提供し、人々の豊かな生活の実現に貢献する。」というミッションを掲げている。このミッションを達成すべく、ドローンという新しいソリューションを活用するソフトウェアの開発に余念がない同社だが、そのソフトウェア部門を率いるのが取締役副社長執行役員の熊田雅之氏だ。今回は、熊田氏に同社が持つコアテクノロジー「BEP」およびクラウドモビリティ構想についてお話を聞く機会を得た。今回は後編をお届けしたい。

※前編はこちら

熊田雅之氏:ブルーイノベーション株式会社取締役副社長執行役員。2011年4月に富士ソフト株式会社を経てブルーイノベーションに入社。2022年6月より現職。複数のドローン・ロボットを制御・管理する「Blue Earth Platform(BEP)」および開発全般の指揮をとる傍ら、航空関連規格の国際標準化に向け、ISO(国際標準化機構)においてSC16(無人航空機システム)エキスパート、SC17(空港インフラ)エキスパートおよびvertiport(垂直離着陸用飛行場)のプロジェクトリーダーを務める。東京理科大学理工学部物理学科卒業。

④ドローンポート事業におけるISO規格化について

 

編集部:続いてブルーイノベーションが手掛けているドローンポートについて触れさせてください。まず、ドローンポートのISO規格化について教えて頂けますか?

熊田氏:現在はISO/TC20が航空機および宇宙機のテクニカルコミッティとなっています。その中のSC16が無人航空機システムのサブコミッティですが、当社が属しているのはSC17という空港インフラを扱うコミッティとなります。当社は2016年からドローンポートを国土交通省や東京大学と一緒に研究開発してきましたが、それをベースにSC17のほうでワーキングを新規で立ち上げた形となります。最初は、他国から「いずれドローンの離発着場が必要になるのではないか?」という提案がありました。それが2018年に東京で開催されたISO総会での話です。当社は2016年からドローンポートの研究開発をおこなってきましたので、ドローンポートの話題が出たというのを聞いた際に、ここは当社の出番だ、となったわけです。そして、2019年のロンドン総会に私が参加させて頂き、議論を交わした上で、2020年の南京総会で発表の枠をもらいました。そこで、日本におけるドローンポートの開発や実証実験の状況を紹介し、これまで蓄えた知見があるので、当社が議長としてワーキンググループを立ち上げて議論していくべき、と訴えました。その結果、新規プロジェクトとして動き出したという状況です。

編集部:具体的な検討事項を教えてください。

熊田氏:最初はドローン物流用ドローンポートシステムにフォーカスして議論していました。当時はドローンポートシステムの活用としては、物流分野での経験しかなかったからです。そのため、物流用のドローンポートシステムの環境と設備の要件を決めていくことにしました。当社はメーカーではないのでドローンポート自体は造らない。ただ、ドローンポートを管理するシステムとしてソフトウェアは開発します。ドローンポートシステムというのはハードウェアとしてのドローンポートと、当社で「VIS」と呼んでいるドローンポート情報管理システムのセットが「ドローンポートシステム」だと定義し、アーキテクチャを標準化しました。こう定義したことで当社の存在意義が現れてきます。その後もさまざまな議論を交わしながら、2023年に国際標準化機構ISOより「物流用ドローンポートシステムの設備要件に関する国際標準規格ISO5491」として正式に採択、発行されました。現在は、ドローンポートシステムの活用が点検や警備などさまざまな分野に広がってきていますので、セカンドエディションとして上記のような分野の要素を入れつつ、ドローンポートとVISの接続を、どのようなデータでやり取りすべきなのか、どのような信頼すべき情報をどのタイミングで渡すのかの検討や、UTMのような外部システムとの連携方法について議論しているところです。そうなってくると、当社のVISにつなぐインターフェースが標準化されて公開されますので、ドローンポートを開発している企業がそれぞれVISに簡単に接続することができるようになります。そうなると、そこもプラットフォームとなっていくわけです。

参考:
https://www.blue-i.co.jp/technology/iso/

⑤ドローンポートを活用した防災ソリューションについて

 

編集部:ブルーイノベーションは2016年からドローンポート事業に携わっていますが、タイミング的にはかなり早かった印象があります。当時と今を比較して、どのあたりが技術的に進化したのでしょうか?

熊田氏:世界の動向としてお答えしますと、一番進化したのはセンシング技術だと思います。100%に近い精度で、特定の場所に着陸させる技術というのは非常に重要です。当社がドローンポートに携わり始めた2016年当時はGNSSのみで着陸していたので、着陸時に数メートルずれてしまうことが多くありました。そのずれを補正するためにマーカーを開発し、ある程度ドローンがポートに近づいてきたら、後はマーカーを利用して着陸していました。しかし、マーカーの場合、夜間だと使えないですし、風で吹き飛んだり、雪や砂などが覆いかぶさってしまっても使えません。そのため、現在は複数のセンサーを使って正しく着陸させる技術というものが世界的に見ると発展してきています。一方で、日本においてはセンシング技術の議論がまだまだ足りないと思っています。ですので、未だにマーカーを使おうとしたり、RTKに頼るシーンが目立ちます。

編集部:日本においてセンシングの議論はなぜ深まらないのでしょうか?

熊田氏:ひとつは出身の畑が違うことが挙げられると思っています。自動車メーカーを除いた、ごく一般的なメーカーとなると、製造は強いですがセンシングについてはそこまで詳しくない印象です。センシング技術をドローンに搭載するということは、かなりの技術がないとできません。一方でSierなどサービスを提供するためのシステムを作る方々は性能の良いドローンが出現するまで待ったり、既に存在するのであればそれを使っていくでしょう。わざわざセンシングの分野に手を入れようとするのは稀な印象です。それに対し、当社はロボティクス側からアプローチしていますので、ハードウェアにおいて物理的に動作させる際に、ただ動かすのではなく、それを高精度で細かい動きをさせるにはセンシング技術が必要となるのが理解できます。ですので、センシング技術を積極的に活用しますし、研究開発も推進していっている状況です。マルチコプターは離着陸時、とても不安定ですのでそれも制御しながら、正確に同じ場所に着陸させる技術というは非常に重要なのです。

編集部:そのドローンポートですが、国内における状況をどのようにご覧になっていますか?

熊田氏:国産のドローンポートがあるか、というとまだまだ少ないのが現状です。一方、経済産業省のSBIR(中小企業イノベーション創出推進事業)にて、VFRさんやCube Earthさん、Prodroneさんと一緒に国産ドローンポートシステムを共同開発していますが、そこでは現場のこれまでの多くの苦労をなるべく入れ込んで、本当に使いやすいドローンポートシステムの開発を目指しています。

編集部:御社は仙台市や千葉県一宮町の海岸にドローンポートをメインとした「BEPポート|防災システム」を設置し、避難広報や状況把握を完全自動化しています。海岸近くに設置してあるドローンポートのメンテナンスはどうしているのでしょうか?

熊田氏:現状はまだ課題も多いです。一番影響を受けるのは塩害です。これは想像以上に凄いです。それを踏まえると、ハードウェアは劣化するものという前提で、いかに取り替えが効くものを用意しておくかということが重要です。いくつものモジュールを組み合わせてひとつのシステムとして、壊れた部分だけ交換できるような設計にしていかないといけないと思います。一方でソフトウェアについては、遠隔の監視やメールでの通知など、さまざまなものが実装できるようになりました。このあたりが難しいのは、高機能にすればするほどコストに跳ね返ってくるということです。そうなると、お客様が使えなくなってしまいますので、ちょうど最適な部分を見つけながら実装していっています。

⑥次世代モビリティ社会を支えるクラウドモビリティ構想

 

編集部:次にブルーイノベーションが掲げているクラウドモビリティ構想についても教えて頂けますでしょうか?

熊田氏:先程もありましたが、今後ロボットやドローンの数はどんどん増えていくわけです。まるで映画の世界でロボットが飛び回っているような世界が必ず来ると考えていまして、その時に中央集権の考え方はどこかで限界が訪れるでしょう。膨大なデータもそうですが、通信も有限なものですから。そうなった時に我々が考えるべき方向性としては人間の世界、自然の世界にヒントを得るべきだと考えました。何十億の人間がいる中で、一人ひとりが常に国に監視されているわけではなく、市区町村ごとだったり、学校という括りだったり、住民基本台帳のようなある瞬間の情報だけでも生活できているわけです。ロボットやドローンも同じようなことができると考えており、いかに不確定情報がある中でもミッションを遂行できるようにするか、BEPの将来像として取り組んでいるところです。通信が不安定な環境であっても、止まらないシステムが目指すべきものです。

編集部:「クラウドモビリティ構想」という名前だけあって、対象はモビリティ全般でよろしいでしょうか?

熊田氏:そうです。ドローンやUGV、水上、水中ドローンを最初のステップに考えています。これらは限られたエリアでも活躍できるものだからです。自動車などになると公の場所になってきますから、ここはまた別のアプローチが必要になるのではないかと考えていますが、既存のモビリティとの連携も考えていきたいですね。

編集部:クラウドモビリティ構想はそのまま事業の拡大にも期待できそうですね。

熊田氏:期待して頂いていいと思います。これまではドローンを飛ばして測量してください、UGVを使って人の代わりに情報収集してください、といった個別相談が多かったのですが、今後、日本の人口減少、労働力不足を考えた時に必要なのは統合ソリューションだと考えています。例えばドローンだと上からしか見えない、UGVだと下からしか見えないとなりますが、人間としては両方使えば双方からの視点で見ることができます。これが統合されれば人間の代わりにドローンやUGVが活躍できるようになるわけです。これらのソリューションが人口減少、労働力不足対策に役立つはずです。

⑦人口減少や労働力不足解決のための切り札として

 

編集部:今後、ブルーイノベーションとしてどういった社会課題を解決していきたいでしょうか?

熊田氏:これからの時代は、複合的なハードウェアを使わざるを得ない状況が出てくると考えています。そこに対しては当社のソリューションが貢献してくれるはずです。また、現在はロボットやドローンなどハードウェアが主流ですが、当社の考え方と技術は実は人間社会にも応用できると思っています。オープンAIに代表されるような、使いやすい技術が世の中にどんどん出てきていますが、それでも人間間の紛争が絶えなかったり、情報の伝達不足で揉めたりすることがあると思います。それに対してロボットを使って、必要な時だけ必要な情報をやり取りするような仕組みを確立できるようになると、それがそのまま人間の世界にも展開でき、より人間が過ごしやすい環境というものが生まれてくるのではないでしょうか。それが最終的には世界平和までつながればいいな、と思っています。


ブルーイノベーションのR&D拠点「クラウドモビリティ研究所」は都内最大の物流施設「MFLP・LOGIFRONT 東京板橋」内に所在。

 

編集部:さて、本日はクラウドモビリティ研究所にお邪魔してインタビューさせて頂いておりますが、開所から1年が経過しましたが、構想していた環境が出来上がりつつあるのでしょうか?

熊田氏:こちらに来て開発スピードが圧倒的に上がりました。作業やテストできる場所が隣接しているという点が大きいです。施設内もきれいなのでエンジニアたちも喜んでおり、モチベーションも上がりましたね。優秀な人材の採用も進むようになりました。

編集部:最後に今後の構想や展開について教えて頂けますか?

熊田氏:コンピュータが小さくなってエッジ側に搭載されるコンピュータがどんどん賢くなっていくことで、接続が切れても稼働する状況を作れる仕組みを考えていかなくてはいけません。最近流行りのフィジカルAIといったものも含め、考えていく必要があると思います。ビッグデータの取り扱いについても、現在はソリューションごとにやっていますが、どういった形でデータを保持しておくか共通部分と個別最適部分というものをどう分けていくかもよく考えていく必要があると感じています。そして、複数台の機体の制御の共通化という部分も大変重要だと思っており、いろいろ考えていきたいところですね。

編集部:本日はお忙しいところありがとうございました。

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